2013/11/17 応援団・神戸マラソン共同体、かく戦えり
(以下の物語は、今から3年前、神戸マラソンを応援した「神戸マラソン共同体」が経験した、馬鹿馬鹿しくも素晴らしい応援の風景です)
こっちには、カニのかぶり物は5人いた!
ランナーたちの中にもカニ仮装は多い、見ず知らずでも
「カニ頑張れ!こっちにもカニいてるで!!」
と叫べば、カニランナーは我々に近づきハイタッチした!!
ハッと見ると、かぶり物どころか、全身カニの着ぐるみランナー!!真っ赤な着ぐるみ、胴体から左右に伸びる8本の足!!
「カニだなキミは?!カニなんだな?!頑張れカニ!!頑張れカニ!!」
走り去りながら、そいつは応えた!!
「いえ、エビです!」
「わ…わかりずらい!わかりずらいぞキミ!とにかく頑張れ!!」
「はい、すみません!!」
神戸マラソンには思い入れがある。2年前の第一回神戸マラソンこそ、オレ自身の初フルマラソンだった。もう2度とマラソンなんかするかっ!と強い怨念を抱き走った30km過ぎ。
あれから3本のフルマラソンを走った。タイムはあんまり変わんけどね。
去年、第二回神戸マラソン。従姉妹が初フルマラソンとして走った。従姉妹は妻とともに、オレの初フルの時、応援にきてくれたから、今度はオレが全面的にバックアップした。
途中、Mちゃん、H先生、Iさん率いるラン友応援団の場所に行き、初めてパンサンドを他の人たちに食べてもらったのも第二回神戸マラソン。
この時、従姉妹は初フルにしてサブ4でゴールするという離れ業をやらかした。
そして今年。また従姉妹は抽選に当たった。オレは落ちた。だから従姉妹の応援に行かなくては!
一方ラン友は、去年の応援を率いたメンバーがそれぞれ都合つかない様子。
大阪マラソンで応援団長かって出てくれたS.Uさんが走るというのに、神戸マラソン応援団長がなかなか決まらないなんて事態は避けたかった。どうせ従姉妹がらみで応援行くんや、神戸マラソンも応援団長やったるで~~!
ただ直前まで仕事のスケジュールがビッシリ入っている。京都マラソンの時は応援前日に現地を周りシミュレーションしたが、とてもできそうになかった。
が、土曜日、昼からの仕事がドタキャンされた!オレは迷わず電車に飛び乗り、三宮、山陽須磨、中央市場前、と現地調査した。
特に今回、最初の10km地点の応援場所決めは大切だった。
あのMさんが、クォーターに参加する、とオレに直メッセージくれていたからだ。
Mさん。
2年前の神戸マラソンエキスポ会場で、初めて実際にお会いしたラン友だ。
周囲を包み込むような、人間として大きな器を感じる人柄。いまでもハッキリ覚えている。
膝に違和感を覚えながら強行出場した第一回神戸マラソンでは、スタート直後に膝の激痛のためにリタイア。
その後、膝軟骨の消滅が判明し、もう2度と走れない、と医者から言い渡されながら、不屈の闘志で、手術を受け、苦しいリハビリを乗り越え、ついに5kmなら走り切れるまでに回復された!
そして、因縁の神戸で、誰にも言わず、自分の中での決着をつけようとしている!
そんなMさんでも、この挑戦はまだ自信がないから公けにしたくない、とおっしゃった。
もし膝が悲鳴をあげたら、速やかにリタイアしなければいけない!
でもオレたちがアホづら下げ、
「頑張れ!頑張れ!」
と叫んだら、無理をしてしまうかもしれない。
Mさんの膝にとっての無理は、せっかく神様からもらった二つ目のプレゼントを台無しにしてしまうことになりかねない。
Mさんの気持ちはよく理解できた。
山陽須磨駅前がジャスト10km地点。コンビニも近く、絶好の応援ポイントだ!
オレたちはそこに陣取り、ランナーを待った!
太陽はどんどんパワーを増し、暑ささえ感じ始めた!
オレはガチャピンの着ぐるみを着ている。京都マラソン応援の時に購入したのだか、あの日は雨だったので、着ぐるみで移動するわけにいかず、泣く泣く着なかった着ぐるみ。
今日こそガチャピンデビューじゃ!と勢い込んで変身したが、早くも後悔していた!暑すぎる!!
続々とやってくるランナー!
くまモン、ピカチュウ、カニ、タコ、イカ、仮装ランナーは応援しやすい!
190cmの外人が2人、黒スーツに黒メガネで走っている。
「FBI!FBI!頑張れよー!」
2人そろって親指を上げるFBI。
ウンコ(のおもちゃ)を頭に載せてるヤツ。
「ウンコ!ウンコ!行けるぞ!」
手を上げて挨拶するウンコ。
「ええぞウンコ!ウンコ!ウンコ!」
ヤツの後ろ姿が見えなくなるまでウンコを連呼した。左隣の、別の応援グループが腹を抱えて笑っていた。
馬の頭をかぶり、医者の白衣のランナー。
「そ…それはキミ!馬ドクター?!頑張れ!というか、どっちかにしぼろう!馬か、ドクターか!欲しがりすぎ!」
左隣がまた爆笑していた。
手作りの、人体模型の仮装。
「内臓!内臓!頑張れ!」
「…もう…ダメです…」
「もうダメって!キミまだ10kmやで内臓!もうちょっと頑張ってみようか!!」
「医師」のビブスを着たランナー。
「ドクター!ドクター!あとは頼みましたよっ!!頑張って!!」
次の応援ポイント、33km地点にたどり着くには、10:27山陽須磨駅発の電車に乗りたい。
クォーターマラソンの「Q」のゼッケンは、10:15頃から徐々に10km地点に現れ始めた。オレはこのあたりから真剣にMさんを探し始めた。
あの人が着ているウエアは、聞かなくても分かっていた。2年前のあのウエアだ。赤地に白文字のラン友Tシャツ。
時間はどんどん経過していく。
Mさんは来ない。
オレ一人残って、後で33kmに合流するか?
しかしオレは団長なんだ、みんなオレを信じてついてきてくれてる。
Mさんが、この挑戦を公けにしたくない以上、オレはこのことを他言していない。いまさら、オレだけ残る、というイレギュラーな発言をして、一枚岩の「神戸マラソン共同体」を瓦解させるのは本意ではない
Mさんの勇姿をこの目で見たい!という気持ちは強かったが…
オレは移動することを選んだ。23名の神戸マラソン共同体メンバーが必死で走って、声をからして叫んでいる。オレは彼らを率いると約束したんだ。24番目のMさんもきっと理解してくれるだろう。
そうだ、オレはヤツらとの約束を守らないと!そのヤツらとは…
①カニ仮装で、電車で女子中生と盛り上がるオヤジ。
②肩が当たり、メンチ切られるアフロのヅラ。
③大柄なアスリート体系にセーラー服きて、さらにたい焼きのかぶり物をかぶった怪人。
アホばっかりやん!
と言いながら、一番アホっぽいガチャピンを着てるオレ。
▼サンチカのパン屋さんで怪人どもがパンを買ってるようすは、あたかもダリの絵画の如く現実を超越していた。
▲カニの横に座った中学生。「なぜカニのお面?」から始まり、親交が深まる。テニス部、他校に試合に行く途中。どうしたら強いスポーツ選手になれるか。真剣にカニに相談中…
さて、33km地点。
状況は一変していた。
言うまでもない。10km地点と33km地点では、ランナーの状態はまったく違う。
ココや!出番や!
エアサロ!!
3本用意したエアサロを掲げてオレは叫んだ!
「みなさん!脚が痛いのは、『気のせい』ではありません!筋肉の炎症のせいです!エアサロあるよ!エアサロあるよ!!」
「ガチャピ~ン!助けて~!脚が痛いよ~!」
さっそくノリの良いランナーがやってくる!一人くると怒濤の如く、脚が痛いランナー達が群がってくる!なんか、ゾンビ映画を彷彿とする集まり具合にちょっと怖くなった!
エアサロはあっと言う間にカラになってしまった!今後はもっと持ってこないと!
エアサロ作戦が終了した以上、さっきと同じように叫ぶしかない!
さっきのFBIや!…一人しかいてない!
「FBI!相方はどうしてん?!一人になっても頑張れ!!」
妻が叫んだ!「ウンコ来た!」
「おお!ウンコ!来たか!無事やったかウンコ!まだまだがんばれウンコ!あともうちょっとや!ウンコ!ウンコ!」
「うーん…。ウンコ仮装はオモロイなあ…」これは妻の便だ、いや弁だ。
馬ドクターが来た!
「馬ドクター!さっきも言うたけどほしがり過ぎや!どっちかに絞ってくれ!とにかくガンバレ!」
人体模型が来た!!
「内臓!内臓!キミ、ここまで来たやんけ!!」
「いえ…もう…ホンマ…ダメっす…」
「キミ、10kmの時もそう言うてたで!あれから20km来たんや!あと10km弱や!!行ける、キミなら行けるぞ内臓!!」
「(消え入るような声で)…ハイ…」
風船をつけて、4:30のペーサーが走り抜ける。
「四時間半!四時間半!四時間半!!」
4:30のビブスを着たふたりはかけ声に合わせて小躍りする。
その30分後の5:00のペーサー。
「ご・じ・かん!ご・じ・かん!」
ニコリともしない5:00ペーサー。
実はこれは京都マラソンでも同じだった。なぜか4:30のペーサーはお調子者で、5:00のペーサーはマジメなやつだった。そういう決まりでもあるのか?
Mさんにはメッセージを送っておいた。「10:30まで待ちましたが、移動します!」
久しぶりにiPhoneを覗くと、Mさんからの返事が来ていた。
「ありがとうございます、無事ゴールしました!ただいま!」
iPhoneを持つ手が震えた。やっぱりMさんは帰ってきはったんや…熱いものがこみ上げて来た。
一度はランナーとして死刑宣告を受けた仲間が、不死鳥のごとく蘇った!その会場にいながら、Mさんの手を握り、肩を叩けなかったのは残念だけど、オレは仲間の復活に心の底から感動していた!!
▼のちにMさんのFBにあがった、Mさんのゴールシーン。
目の前のランナーたちは…
5時間のペーサーが過ぎ、かなり消耗が激しい様子のランナーたち。
それでも走りをやめず、前を向いている。
オレは思った。この人たちは、オレや。
この夏、故障で走れず、真夏に氷水を背負ってずっと、5時間歩き続けた。何度も何度も。
ひとえに、制限時間5時間の北海道マラソンを走るため。
結果的に道マラは走破できなかったけど、オレなりに頑張った。
翌月の大阪マラソンも、満足な練習は間に合わず、セカンドワーストの5時間16分だった。
5時間のペーサーが過ぎたランナーたちはもうヘロヘロな連中ばかり。大阪でのオレはまさに、ここにいたんや。
決して、練習サボったつもりはない、今の自分にできるベストを尽くして、そして今この人たちは、オレは、ここを走っているんや。
そう思うとオレは…
もう声は出なくなっていたが、それでも、ノドよ裂けよ、とばかりに叫んだ!
「見せてやれ!練習の成果を見せてやれ!!毎日、走った、あの成果を見せてくれ!」
オレはこのフレーズを、ずっとずっと、何度も何度も叫んだ。
ガチャピンの中のトレーナーは汗だくになっていた。タンバリンを叩き続けた右手の指は皮膚が破れて出血していた。
オレも、オレの横のYちゃんも、その横のOさんも、その横の栗原さんも、TもんさんもSじゅんも、ずっとずっと、叫んでいた。
神戸マラソン共同体の応援は間違いなく、ナンバーワンの応援部隊でした。